ダークマターの存在は1930年代から考えられてきましたが、2023年現在でもその存在を確認はできていません。
しかし、着実に正体に迫りつつあるため、今回は最新の研究も含めて説明していきます。
『ダークマター(暗黒物質)まとめ』として
1、「ダークマターとは?」
2、「なぜ観測できないのに存在するといえるのか」
3、「ダークマターの4条件」
4、「ダークマターの候補」
5、「最新研究とダークマター捕獲計画」
の5本立てで、”わかりやすく” 解説していきます。
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ダークマター・暗黒物質とは|正体・条件・候補は?本当に存在する?
ダークマターとは?|本当に存在する?正体は?
「ダークマター」とは、宇宙空間に存在する正体不明の物質の総称です。
現在ではまだダークマターの存在を観測することができていませんが、
重力をもらたす物質(要因)として必ず存在していると考えられています。
かみ砕いていえば、ダークマターは「未知の重力源(他の物質を引き付ける存在)」と表現できます。
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ダークマターは「暗黒物質」とも呼ばれますが、”黒”や”悪”を意味しているわけではありません。
未知の物質ということで、ダークマターと称されています。
NASAの観測衛星であるWMAPの結果によれば、
宇宙空間の存在量で私たちが認知している物質はわずか5%だといいます。
残りの26%が「ダークマター」で、あとの69%が「ダークエネルギー」に当たるそうです。
つまり、私たちは宇宙の5%の成分しか知らないということですね。
先程述べた通り、望遠鏡や天文衛星などの現在の観測機器では確認することができないのですが、
理論上は必ず存在していると考えられます。
ダークマターがなければ大規模な星の集まりである「銀河」は形成されず、
東大のシミュレーションによっても銀河の維持にダークマターが不可欠であることがみてとれます。
※ ダークマターがない場合の宇宙シミュレーション:星が分散し銀河が形成されない
※ ダークマターがある場合の宇宙シミュレーション:星が密集し、銀河らしき存在を確認できる
逆に言えば、銀河の形成はダークマターが始まりだったとも言えます。
まずダークマターが複数集まり、中規模な重力源を構築します。
そして、周囲の原子が引き付けられるようになり、
それらのガスが収縮することで銀河(団)が形成されたという流れです。
あまり具体性のない説明をしても理解しづらいと思うので、
「ダークマターは観測できないのに、なぜその存在を肯定できるのか」について説明していきましょう。
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ダークマターの存在証明:「1、観測できる星だけでは重力が不十分」~ダークマターは本当に存在する?~
まずは「ダークマター存在証明」として、ダークマターを発見するまでの歴史をたどっていきましょう。
ダークマター発見の歴史は1930年代までさかのぼります。
スイスの天文学者であったフリッツ・ツビッキーは、
「かみのけ座銀河団」の質量を2つの方法で比べました。
1つ目の方法は「力学質量法」といって、銀河の運動速度によって質量を求める方法です。
銀河の速度が速ければそれだけ遠心力が大きくなるため、それに対応した重力源が必要になります。
つまり、速く動く銀河の周りには必ずそれを引っ張る重力をもった銀河が必要だということです。
複数の銀河が円運動(楕円運動)をしているため、
そういった運動が起こるように銀河の質量をシミュレートし決めていけばよいのです。
この過程により、現在のように正確ではありませんが、重力をもとにした銀河団の質量推定が可能です。
2つ目の方法は「光度質量法」です。
この方法では、星の色と明るさから質量を推定しています。
「星の色」は「星の明るさ」を示し、「星の明るさ」は「質量」と相関があります。
例えば青白く光っている星は明るくみえ質量が重く、
暗褐色に光っている星は暗くみえ質量が軽くなります。
色と明るさの関係は少し難しいのですが、
明るさと質量の相関は、明るさの原点がエネルギーの放出にあることを理解すれば納得しやすいと思います。
質量の大きい物質ほど、星内部の圧力と温度が高くなるため、核融合反応がより効率的に進みます。
この「効率さ」こそが明るさの光源となっているために、明るさと質量には相関があるのです。
当時の「光度質量法」はかなりざっくりとしたものでしたが、ツビッキーはこの手法でも銀河団の質量を計算しました。
以上の「力学質量法」と「光度質量法」2つの手法で銀河団の質量をそれぞれ求め、
ツビッキーは2つの結果を比較しました。
すると、驚くべきことに気が付きます。
それは、「力学質量法」で求めた質量が「光度質量法」の質量の400倍も重かったのです。
つまり、どちらかの結果が間違っているか、何か予期せぬ存在が影響を及ぼしているかです。
「光度質量法」が正しい場合、銀河の遠心力を支えられないことになり、銀河はちりじちに分断されてしまいます。
逆に「力学質量法」が正しい場合には、観測できない星のような「何か」の存在を認めなければなりません。
なぜなら、観測した星だけでは、質量(重力源)が足りていないのですから。
ここで、初めて「観測できない何か」の存在が明らかになり、これが現在の「ダークマター」なのです。
ダークマターの存在証明:「2、ガスの回転速度がなぜか同じ」~ダークマターは本当に存在する?
ダークマターの存在を肯定(≠証明)する例をもう1つ挙げておきましょう。
それは「アンドロメダ銀河のガスの速度」です。
銀河のガスと言われてもイメージしづらいかもしれないので、
水素の集まりだと考えていただいても構いません。
このガスも、地球が太陽を周回するように、重力源の周りを回転しています。
そして決まった軌道を周回するためには、当然、遠心力と重力が釣り合う必要があります。
このとき、重力源から近ければそれだけ重力が大きくなるので、
より大きな遠心力が必要、つまり、より速い運動が必要になります。
すなわち、重力源に近いガスほど速く回転し、遠いガスほど遅く回転するということですね。
しかし、アンドロメダ銀河のガスの速度を計算すると、
銀河中心からの距離に関わらず速度はほぼ変わらないという結果になりました。
つまり、銀河の中心にある「観測できる星」以外にも、
銀河の外側に「観測できない何か」が重力源として存在しているということが判明したのです。
そうでなければ、ガスの速度が一定である説明がつきません。
以上2つの例から「ダークマター」は確かに存在すると考えられるようになり、
現在ではその条件や候補粒子に対する知見が深まるようになっていて、ダークマターを捕獲しようと日本も奮闘しています。
続いての項目では、ダークマターである条件について説明していきます。
ダークマター 4つの条件
ダークマターの条件は以下の4つです。
1、いかなる電磁波(光)も放出しない
2、他のあらゆる物質と衝突しづらい(⇒ 電気を帯びていない)
3、冷たい物質(速度の遅い粒子)
4、ダークマターの総質量は、観測可能な質量の5倍程度
1、いかなる電磁波(光)も放出しない
現在の望遠鏡や天文衛星などでは観測できないことからそう考えられています。
もちろん目で見える「可視光線」だけを放出しないという意味ではなく、
「X線」や「赤外線」といった現在観測できる波長域の光を放出しないということです。
今後、観測技術が進めば、この項目は不適切なものとなるかもしれませんね。
2、他のあらゆる物質と衝突しづらい(⇒ 電気を帯びていない)
この条件は「弾丸銀河団」という2つの銀河団が衝突した結果誕生した銀河団をもとに考えられるようになりました。
通常、2つの物質が衝突した場合、その衝撃と反動で衝突した付近に停滞します。
車が正面衝突した場合を考えればわかりやすいでしょう。
質量と速度が大きく異なる場合でも、衝突の軌跡は明確に残り、その場を大きく離れることはありません。
実際に弾丸銀河団でもガスの衝突がみてとれ、ガスは弾を撃った時の衝撃波のような形状をしています。
言い換えると、銀河団のガス同士が衝突し、以前とその密度を変えたと表現できます。
では、ダークマターの密度(質量分布)はどうでしょう?
ダークマターは衝突がなかった場合のように、全体にまんべんなく存在していました。
このことから、ダークマターは衝突しづらく、
また結合、分離した軌跡が見てとれないことからも電気的に中性であると考えられます。
こちらの項目に関しても、他の衝突によって生じた銀河団の観測結果が増えれば例外が見つかるかもしれません。
3、冷たい物質(速度の遅い粒子)
この条件は、銀河がコンパクトにまとまっていることが根拠になっています。
仮にダークマターが熱い物質だった場合、
銀河を形成する初期段階でダークマターの粒子は四方八方に飛び回っていたことになります。
これでは小さな重力源が動き回っている状態であるため、
広範囲にガスが形成されることとなり、少数の銀河が形成されなくなります。
狭い範囲に星が集まり銀河を形成するためには、あまり動かない重力源の方が都合が良いということですね。
ただし、こちらもダークマターの正体が不明な以上、動き回っていても中規模な重力源となりうる可能性もあり、
上記2つと同様に絶対条件とはいえないかもしれません。
4、ダークマターの総質量は、観測可能な質量の5倍程度
ここだけは、ほぼ絶対の条件だといえます。
「5倍」という数字だけは変化する可能性はありますが、現在確認されている銀河を維持するためには、
およそ5倍程度は観測可能な銀河やガスとは異なる大きな質量が必要です。
そして、この点がダークマターの候補を絞る手がかりともなっています。
長くなってきたので、そろそろ最後の「ダークマターの候補と捕獲計画」に移りますね。
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ダークマターの候補/ニュートラリーノとアクシオン
「ダークマターの4条件」を満たし、現在ダークマターとして有力視されている候補を2つを紹介します。
候補1、ニュートラリーノ
ニュートラリーノはまだ発見されてはいないのですが、
存在するだろうと考えられている「超対称性粒子」という素粒子グループの1つです。
具体的には「フォティーノ」、「ジーノ」、「ヒグシーノ」の3つを指します。
「超対称性粒子」の説明は少し専門的になってしまうのですが、
特定の素粒子とペアを組むことができる素粒子と考えてください。
遺伝子における「AとT」、「GとC」の組み合わせが素粒子にもあるというイメージで結構です。
素粒子にはそれぞれ回転の勢い(=スピン)があるのですが、その回転が半回転だけズレているとペアを組める可能性があります。
ペアの一方は私たちになじみの深い電子やクォークで、もう一方が「超対称性粒子」と呼ばれます。
例えば、有名な電子ニュートリノのスピンは2分の1(半分だけ自転する)なので、
ペアとなる超対称性粒子はスピンが0のスカラー電子ニュートリノとなります。
ニュートラリーノのうち、「フォティーノ」は光子のペア、「ジーノ」はウィークボソン(Z粒子)のペア、
「ヒグシーノ」はヒッグス粒子(他の素粒子に質量を与える粒子)のペアです。
ニュートラリーノは質量が陽子の1,000倍と非常に重く、しかも電気を帯びていない素粒子です。
ダークマターの4条件を満たす可能性があることからダークマター候補として最も期待されています。
そしてこのニュートラリーノを確認するために日本も積極的に研究しているのですが、
その辺は最後の「最新研究」に回すことにして、もう1つの有力候補を紹介しましょう。
候補2、アクシオン
こちらもまだ発見には至っていない素粒子です。
アクシオンは質量が陽子の100兆分の1程度で、ニュートラリーノと比べると非常に軽い素粒子です。
そのため、ダークマターとなるための「観測可能な質量の5倍程度」という条件を満たすためには高い密度が必要なのですが、
他の粒子とほとんど衝突しないため、この必要条件はきちんと満たすと考えられます。
また、アクシオンの大きな特徴として「磁場の影響を受けて光子に変わる」性質があり、
これを活かして発見しようと20年以上試みられていますが、いまだ発見したとの報告はありません。
以上の2つが有力なダークマターの候補です。
最後は「ダークマター捕獲計画」について説明します。
ダークマター最新研究と捕獲計画ー待ち伏せ作戦とビッグバン実験
1、ダークマター待ち伏せ捕獲計画
日本とアメリカが別々に取り組んでいて、地下にダークマターの検出装置を設置して、
運よくダークマターが通過、衝突するのをひたすら待ち伏せる作戦です。
地下に装置を設置するのは、宇宙船のノイズを減少させることと、自然放射線の介入を妨げるためです。
日本では東大宇宙線研究所が「XMASS(エックスマス)」という装置を岐阜の地下1,000mに設置し、
主にニュートラリーノを捕獲しようと待ち続けています。
XMASSの中は1トンの液体キセノンで満たされていて、
ダークマターがキセノンの原子核に運よく衝突してくれれば光が放出され感知できるという仕組みです。
もう1つ有名なのは、アメリカの素粒子宇宙物理学センターの「CDMSⅡ」です。
こちらも地下深くに装置を設置する点は日本のXMASSと同様ですが、検出のメカニズムは全く異なります。
XMASSはキセノンによる発光を目指していますが、
こちらはゲルマニウムの結晶にダークマターが衝突した際の温度の上昇と電流を感知しようという試みです。
いずれの方法もまだダークマターの検出にいたってはいませんが、原理自体は正しいように思えるので、
そう遠くない未来に「待ち伏せ捕獲計画」によってダークマターの正体が解明されるかもしれません。
2、ビッグバンの再現実験
こちらはスイスの「LHC:大型ハドロン衝突加速器」という超巨大な加速器(実験施設)で実施されている実験です。
LHCといえばヒッグス粒子を発見したことでも有名ですね。
ビッグバン直後の高エネルギー状態を再現するために、光速に近い速度まで加速させた陽子を正面衝突させています。
ダークマターは、宇宙の初期にビッグバンのエネルギーを使って作られたと考えられているため、
この方法でダークマターの直接の検出はできなくても、確かに誕生した証拠にはなる可能性があると考えられています。
だいぶ長くなってしまいましたが、これにて「ダークマター」の説明は一区切りとして、
次回の記事では『ダークエネルギー』をご紹介します。
こちらも「ダーク」と名がつく通り、まだ正体不明のエネルギーなのですが、
宇宙の存在量の69%を占めるほど重要な未知のエネルギーです。
ダークマターほど長い説明にはならないはずなので、興味のある方はぜひお読みください<(_ _)>
以上、『ダークマター(暗黒物質)とはー本当に存在する?正体は?条件は?候補は?』でした!
最後までお読みいただき、ありがとうございました<(_ _)>
「ダークマター(暗黒物質)とは?」まとめ
ダークマターとは?ー本当に存在する?正体は?
・ ダークマターとは、宇宙空間に存在する未知の重力源の総称
・ 現在ではまだ観測できていないが、重力をもらたす要因として必ず存在していると考えられる
・ 宇宙空間の存在量で、既知の存在はわずか5%だけで、26%がダークマター、残りの69%がダークエネルギーだと考えられている
・ 銀河の維持にはダークマターが不可欠
ダークマターの存在証明:なぜ観測できないのに存在するといえるのか
1、観測できる星だけでは重力が不十分
・ かみのけ座銀河団の質量比較から、観測できない重力源の存在が疑われた
2、ガスの回転速度がなぜか同じ
・ アンドロメダ銀河におけるガスの周回速度が、中心からの距離に関わらずほぼ変わらなかった
・ このことから、銀河の外側にも観測不可能な重力源があると考えられる
ダークマターの4条件
1、いかなる電磁波(光)も放出しない
2、他のあらゆる物質と衝突しづらい(⇒ 電気を帯びていない)
3、冷たい物質(速度の遅い粒子)
4、ダークマターの総質量は、観測可能な質量の5倍程度
ダークマターの候補
候補1、ニュートラリーノ
・ ニュートラリーノは「超対称性粒子」という素粒子グループの1つで、「フォティーノ」、「ジーノ」、「ヒグシーノ」の3つが当てはまる
・ ダークマターの4条件を満たす可能性があり、質量も十分
候補2、アクシオン
・ アクシオンは質量が陽子の100兆分の1程度軽い素粒子で、磁場により光子に変わる性質をもつ
最新研究とダークマター捕獲計画
1、ダークマター待ち伏せ捕獲計画
・ 地下にダークマターの検出装置を設置し、運よくダークマターが通過、衝突するのを待ち続ける作戦
・ 日本では、液体キセノンを用いたXMASS(エックスマス)による装置、アメリカではゲルマニウムの結晶を用いたCDMSⅡの装置が代表的
2、ビッグバンの再現実験
・ LHCの巨大加速器でビッグバンを再現し、ダークマターの誕生を証明しようと試みている