今回は『ダークエネルギー(暗黒エネルギー)と宇宙の加速膨張/正体は?候補は?証拠は?』として、
ダークエネルギー(暗黒エネルギー)についてわかりやすく解説します。
前回の「ダークマター」と同様に、ダークエネルギーでも ”正体不明” という意味で「ダーク」が使われています。
こちらはダークエネルギーと違って、ほとんどその正体はわかっていないのですが、
現在の物理学が正しいのならば必ず存在しなければならない存在で、宇宙の存在量(成分比)の69%を占めると考えられています。
さっそく、正体不明の超重要エネルギーについて解説していきましょう。
※ 今回も長い記事なので、お時間のない方は最後のまとめだけお読みください<(_ _)>
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ダークエネルギー・暗黒エネルギー/宇宙の加速膨張/正体・候補・証拠
ダークエネルギー(暗黒エネルギー)の正体は?
「宇宙は加速膨張している」とどこかで聞いたことがあるでしょうか?
その「膨張させているエネルギー」がまさに「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」のことです。
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宇宙をどんどん広げていくためには、現在の物理学の考えに従えば、
力(エネルギー)を外側に加える必要があります。
なぜなら、星やダークマターが内側に向かって引き付ける力(引力)をもっているのですから。
内側への引力だけが働いているのならば宇宙は収縮していくはずなのに、
実際には ”加速” しながら膨張しているため、引力を上回るだけの引き離す力(斥力:せきりょく)が働いていると考えられます。
この未知の斥力を「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」と呼んでおり、これまでの重力の概念とは真逆のエネルギーです。
加えて、「宇宙を加速させ続けている」ということは、ダークエネルギーは減少することがないということです。
もっと言えば、より大きくなっていく宇宙をさらに膨張させるために、ダークエネルギーも増えていると考えられます。
実際に、宇宙初期にはほとんどなかったはずのダークエネルギーが、
現在では宇宙の存在量の69%ほどを占められていると考えられています。
ここで少し疑問を感じる方がいるかもしれません。
「引力より斥力の方が強いのならば、なぜ地球が太陽から離れたり、銀河が分断されたりしないのか?」と。
これは、銀河などの星が密集した範囲では、斥力を重力などの引力が上回るためだと考えられます。
私たちの体においても同様で、物質間に強固な結合が存在するため、ダークエネルギーによって体がバラバラになることがないのです。
逆に言えば、ダークエネルギーが強まるようなことがあれば、地球は太陽から離れていき、私たちの生存も危うくなるでしょう。
実際に、引力の弱い遠くの銀河と銀河ではダークエネルギー斥力により距離が開いていっていることが確認されています。
こんな不思議なエネルギーですが、現在までのところ、ダークエネルギーの性質や正体についてほとんどわかっていません。
しかし、有力視されている説や概念はあるため、それらを説明することも踏まえて、
まずは「宇宙が加速膨張している証拠」から解説していきましょう。
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宇宙は本当に加速膨張している?
宇宙が加速膨張しているのが当然のように書いてしまいましたが、
ほんの20年前までは「宇宙の膨張は減速しているはずだ」と強く信じられていました。
ダークエネルギー(暗黒エネルギー)などという不可解な力を誰もが想定していなかったので、
宇宙誕生時のビッグバンの名残で膨張しているだけだと考えられていたのですね。
これは極めて当然の考え方で、意味不明なダークエネルギーを提唱していた方が変人扱いされてしまいます。
しかし、1998年に2つの別のグループがそれぞれ「宇宙の加速膨張」の観測事実を発表したことで当時の常識はくつがえります。
では、どんな発見があったのか詳しくみていきましょう。
宇宙の加速膨張の証拠は2つの観測事実から成り立っています。
1、地球と多くの星との正確な距離(≒時間)がわかる
2、それらの星がどれだけ移動したかがわかる
以上の2つがわかれば、宇宙が膨張しているのか収縮しているのか、さらに加速しているのが減速しているのか、
あるいは一定の大きさなのかが完全に分かります。
例えば近くの星と遠くの星について上記2点がわかったと仮定しましょう。
まず大前提として、距離がわかるということは、時間もわかるということです。
なぜなら、光は30万km/sという宇宙規模では超低速なので、
近くの星の光が届くまでにかかる時間よりも遠くの星の光が届くまでの時間の方がずっとかかるからです。
言い換えれば、遠くの星の方がはるかに昔の映像ということになります。
そのため、距離がわかれば、昔の宇宙を観測できることになります。
ここで「2、それらの星がどれだけ移動したかがわかる」につながります。
地球との距離が10億年光年の星を観測すれば、それは10億年前の宇宙の姿です。
その星がどれだけ移動したかがわかれば、地球に光が届くまでの”10億年”の間にどれだけ宇宙が膨張(収縮)したかがわかります。
逆に言えば、10億年前に宇宙がどれくらいの大きさだったかわかるのです。
この計算を複数の星で行えば、
10億年前にはこんな小さかったのに、1億年前でだいぶ大きくなって、100万年前ではこんなに大きくなった…などとわかります。
ここから、宇宙が ”加速” 膨張しているのか、”減速” 膨張しているのかみえてきます。
少し長くなってしまいましたが、以上のように
1、地球と多くの星との正確な距離(時間)がわかる(⇒ いつの星だったかわかる)
2、それらの星がどれだけ移動したかがわかる(⇒ 当時の宇宙の大きさがわかる)
という2つの条件さえわかれば、宇宙の加速膨張の証拠となります。
では、実際にどうやって2つの条件を調べられたのか簡単に説明していきましょう。
宇宙の加速膨張の証拠:1、地球と多くの星との正確な距離(≒時間)がわかる/Ia(イチエー)型超新星
宇宙の加速膨張の証拠『1、地球と多くの星との正確な距離(≒時間)がわかる』
簡単なようで非常に難しい問題です。
遠くにかすかに見える船をみて、正確に距離がわかる人はいないでしょう。
もちろん船のもともとの大きさはわからないのです。
実際に「距離を測ること」は宇宙の観測で最も難しいことの1つです。
では、どうしたか?
まず、船の明かり(船灯)に注目してみましょう。
もし船に明かりがともっていて、かつその明るさがあらかじめわかっていたらどうでしょう。
明るさの公式に「明るさは距離が離れるほど暗くなり、距離の2乗に反比例する」という便利なものがあります。
つまり、距離が2倍離れれば、明るさは4分の1になるという公式です。
よって、船の明かり、今回で言えば、星の明るささえわかれば、距離がわかるということになります。
ここで注目されたのが「Ia(イチエー)型超新星」という天体です。
この超新星は、恒星が燃え尽きて大爆発した姿で、
その爆発の原理的に、ある一定の質量(太陽の1.4倍)で爆発すると決まっています。
爆発するときの質量が決まっているため、理論上は星の明るさも一定になります。
つまり、Ia型超新星を観測すれば、星の明るさから距離がわかるということです。
これで、宇宙の加速膨張の証拠のカギである条件1「地球と多くの星との正確な距離(≒時間)がわかる」はクリアです。
宇宙の加速膨張の証拠:2、それらの星がどれだけ移動したかがわかる/光の波長
宇宙の加速膨張の証拠『2、それらの星がどれだけ移動したかがわかる』
こちらは単純です。
光は音と同じように「波長」という波で伝わっていています。
波長が長ければ赤色に、短ければ青色に見えます。
もし宇宙が膨張している、つまりIa型超新星との距離がひらいている場合には、
この波長も引き延ばされて色が変わります(ドップラー効果)。
つまり、白だった光が赤色に変わったり、赤外線やマイクロ波などのもっと長い波長の光になれば、
光が届くまでの間に遠くに移動したということがわかります。
”どれだけ波長が伸びたか” が ”どれだけ移動したか” に相当します。
以上2つの観測を重ねた結果、
「宇宙は70億年前に減速膨張から加速膨張に転じ、現在も加速膨張を続けている」という結論に到達しました。
よって、宇宙は何かしらの未知のエネルギー(=ダークエネルギー)の影響を受け、
今なお重力という引力を振り切って加速膨張し続けているということです。
では、最後に肝心の「ダークエネルギーの正体」について説明していきましょう。
ダークエネルギーの候補|正体は空間エネルギー?
最初に「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)も増えている」と述べました。
宇宙空間の広がりと共にダークエネルギーも増えているという理論から、
現在最も有力視されている説は「ダークエネルギーは空間そのものが持つエネルギー」だという考えです。
宇宙空間が真空であることを考慮に入れれば、「ダークエネルギーの正体は真空のエネルギー」と言い換えられますね。
真空と聞くと「空気の少ない空間」や「空っぽの空間」というイメージをお持ちかもしれませんが、
一般的には「真空=あらゆる物質を取り除いた空間」を意味します。
しかし、あらゆる物質を取り除いても、そこにはエネルギーが生じます。
つまり、真空という空間そのものがエネルギー持っているわけです。
これを説明するのは「量子論」の考えが不可欠なので、かみ砕いて簡単に説明しますね。
真空といっても、あらゆる存在が通過できないわけではありません。
ニュートリノなどの素粒子が物質を通過するように、真空中を通過する粒子も存在します。
こうした特別な粒子が結合したり(ペア化)、分離したり、場合によっては生成や消滅を繰り返すことによって、
何もないはずの空間にエネルギーが生じます。
少しイメージしづらいかもしれませんが、
この真空のエネルギーは「カシミール効果」という現象によって実証されています。
カシミール効果の実験では、真空中に2枚の金属板を置くだけで、板の内部と外部でエネルギー差が生じています。
これは、金属板を通過できる粒子が減ったために生じたエネルギーの現象で、
例え真空であっても、空間があるだけでそこにエネルギーが発生することを示唆しています。
このことから、宇宙空間が広がれば空間のエネルギーも増し、
空間のエネルギーこそがダークエネルギーだというのが有力な仮説なのです。
かなり短絡的な説ですが、現在までのところ一番マシな ”ダークエネルギーの正体説” としては支持されています。
しかし実際には真空のエネルギーだけでは現在の宇宙の加速膨張は説明できない点など多くの疑問が残るため、
おそらく間違っているというのが多くの研究者の認識です。
以上、だいぶ長々と説明してしましたが、結論としては、
「ダークエネルギーは確かに存在すると考えられるが、その正体は全然わからない」ということです。
釈然としない結論だとは思いますが、新たな説や論文が発表され次第この記事も随時更新していく予定ですので、どうかご了承ください。
さて、前回のダークマターと合わせて『宇宙のミステリー』についてはだいぶ説明してきました。
次回は、皆さんもよくご存じの『ブラックホール』についての解説です。
ブラックホールはどうやって生まれるのか、ブラックホールでは時間が止まる、人工ブラックホール…などについて説明していく予定ですので、
興味のある方はぜひお読みください。
以上、『ダークエネルギー(暗黒エネルギー)と宇宙の加速膨張/正体は?候補は?証拠は?』でした!
ご朗読ありがとうございました<(_ _)>
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「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)と宇宙の加速膨張/正体は?候補は?証拠は?」まとめ
ダークエネルギー(暗黒エネルギー)とは?
・ ダークエネルギー(暗黒エネルギー)とは、宇宙を加速膨張させている未知のエネルギーのこと
・ 通常、星やダークマターなどの引力により宇宙は収縮に向かうはずだが、それを上回る斥力があり、それがダークエネルギーにあたる
・ また、膨張する宇宙をさらに膨張させるためには、ダークエネルギーも増えて続ける必要がある
・ ダークエネルギーは宇宙初期にはほとんどなかったと考えられるが、現在では宇宙成分の69%ほどを占められていると考えられている
宇宙は本当に加速膨張している?
・ 20年前までは宇宙の膨張は減速しているはずだと考えられていたが、現在では加速膨張していると信じられている
・ 宇宙の加速膨張の証拠は以下の2つの観測事実から成り立つ
1、地球と多くの星との正確な距離(時間)がわかる(⇒ いつの星だったかわかる)
2、それらの星がどれだけ移動したかがわかる(⇒ 当時の宇宙の大きさがわかる)
・ 上記2つの観測事実から、宇宙は約70億年前に減速膨張から加速膨張に転じ、現在も加速膨張を続けているという結論が導かれた
ダークエネルギー(暗黒エネルギー)の候補
・ 最も有力視されているのは「ダークエネルギーは空間そのものが持つエネルギー」だという説
・ あらゆる物質を取り除いた空間(真空)においても、エネルギーが生じることが論拠となっている
・ しかし真空のエネルギーだけでは現在の宇宙の加速膨張は説明できないため、説得力に欠ける