ヒトの遺伝情報のうち、99.9%ほどが全員共通しています。
しかし、わずか0.01%の違いが、体質や体のパーツなどいろいろな特徴に深く関わっています。
では一体、「遺伝」はどこまで及ぶのでしょうか?
二重まぶたや耳垢のタイプなど、体の一部の特徴に「遺伝」の影響が大きいことはよく知られていますが、
浮気性や怒りん坊などといった「性格」、「行動」、「心」なども遺伝するのでしょうか?
今回は『【遺伝と性格・行動】ーヒトの性格や行動は遺伝するのか?』として
1、【ヒトの性格】がどれだけ遺伝するのか
2、【動物実験】からみる性格の遺伝性
の2つについて、”わかりやすく” ご紹介します。
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『遺伝と性格・行動』ーヒトの性格や行動は遺伝するのか?
ヒトの性格や行動が遺伝するか調べる方法
性格は遺伝するのかどうか…、まず大事なことはどうやって調べるかです。
「まぶた」のように特徴がはっきりしていたり、「身長」のように数字で表すことができる定量的な形質であれば、
たくさんのヒトの「特徴」と「遺伝子の並び方(配列)や影響の強さ(遺伝分散)」を比較して、遺伝かどうかを判断できます。
実際に、身長は約800の遺伝子、体重は約400の遺伝子が関わっていると推測されています。
しかし、「性格」という曖昧な特徴だと、「遺伝」が原因なのか育ってきた条件やその時の体調などの「環境」が原因なのかわかりません。
そこで「環境」は同じで、「遺伝」情報だけが違うヒトで実験する必要があります。
つまり、調べる対象は「双子」です。
双子には、「一卵性」と「二卵性」の2種類があって
「一卵性」は1つの受精卵が2つに分かれたものなので「遺伝情報は基本的に同じ(完全には一致していません)」で、
「二卵性」は2つの卵子にそれぞれ違う精子が授精したものなので「遺伝情報は約50%同じ(普通の兄弟姉妹と一緒)」です。
よって
一卵性の双子 ⇒ 環境も遺伝情報もほとんど同じ
二卵性の双子 ⇒ 環境は同じだが、遺伝情報は約半分同じ
となります。
そのため一卵性と二卵性の双子に同じ性格実験をして、結果に違いがあれば「遺伝によるもの」と判断できそうですよね。
つまり「一卵性の双子は同じ行動を示したのに、二卵性は違った」となれば「遺伝」が深くかかわっている可能性がありそうです。
では、さっそく実際の実験をみていきましょう。
ヒトの性格や行動は遺伝する?ー大規模実験で検証!
1994年にアメリカで大規模な実験が行われました。
20年以上前の実験ですが、これ以上にデータが豊富な実験は2016年までに実施されていないため、こちらを紹介します。
この実験は、同じ家庭で育てられた一卵性、二卵性のヒトを1000組ずつ集めて行われました。
およそ4,000人がデータのサンプルとなります。
一卵性は必ず同性なので、二卵性においても同性のみ実験に用いています。
実験項目には、心理実験、行動実験などが含まれ、結果の詳細が不明な点が多々ありますが、
最終的に「一卵性の方がよく似ている=性格は遺伝する」と結論付けられています。
どの程度遺伝するのかについてもざっくりと調べられていて、「異なる家庭」で育てられた一卵性の双子に対しても同様の実験を行い、
結論として「性格の3分の2までが遺伝で決まる」と判断されています。
ただし、検査項目が偏っていたり
感覚的な基準で結果が判断されるなど良い実験とは言えないため、あくまで参考程度にとどまります。
小さな規模の実験でしたら、同様の「一卵性の方が行動がよく似ている」という結果は多数あります。
しかし、テレビでみられる実験のように感覚的な解釈がほとんどです。
「同じような協調性をみせた」や「悪いことをやめさせようとした」…など。
ヒトの実験では、主に病院や報道機関などの統計・遺伝学の専門外の方による実験が多いことに加えて、
倫理と個人情報という制約条件が厳しいため、まともなデータが集まっていないのが現状です。
そこで動物実験に的を変え、具体的な結果をみていきましょう。
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「犬・競走馬・マウスの実験例」
動物の場合は科学的な性格実験が多数行われていて、多くの性格関連遺伝子が推定されています。
まずは最も身近な「犬」から説明していきましょう。
皆さんも犬の種類によってある程度のイメージがあると思います。
警察犬によく使われるシェパードは「頭が良くて攻撃的」
盲導犬のラブラドール・レトリーバーは「従順で好奇心旺盛」…など。
これは犬種ごとに特有の遺伝子をもっていることが大きく関係してます。
例えば、神経伝達に関わる遺伝子(12種)、代謝に関わる遺伝子(3種)に違い(多型)が認められています。
この特徴はヒトとかかわりの深い動物には特に顕著にみられます。
例えば、競走馬の場合では、「足の速さ」や「持久力」とともに「性格の従順さ」も基準に選抜が行われてきました。
その結果、通常の馬では頻度の低い多型が多く存在し、犬と同様に特に神経伝達に関わる遺伝子に変異が認められます。
一方で「犬」や「馬」の場合では、本当に遺伝子の違いが正確に影響しているのか分かりづらいため、
実験のモデル動物である「マウス」の結果をみていきましょう。
マウスの場合は、特定の遺伝子を機能させなくすることが可能(ノックアウトマウス)なので、
正確に関係しそうな遺伝子を1つずつ取り除いていけば、「遺伝と性格の関係」についてはっきりとわかります。
例えば、「性行為の活発化=浮気性」に関するタンパク質に「バソプレッソ受容体V1」があります。
このタンパク質が強く働くと「浮気性」になることが分かっていたため、
このタンパク質を抑える遺伝子をハツカネズミに挿入した実験があります。
すると見事に「浮気性」は改善され、一夫一妻になったため
少なくともハツカネズミの「浮気性」には遺伝が関わっている可能性があります。
他にも「どれだけ活発に動き回るか=移動量」に関するマウスの遺伝子も特定されています。
1, 6, 16, 17番染色体に移動量の低下に関する遺伝子があり、3,9,13,14番染色体に逆に移動量を増加させる遺伝子があります。
他にも多数、マウスに関しては「一部の性格や行動に関与する遺伝子」が分かっています。
「性格がどのくらい遺伝するのか」については答えようがありませんが、
限られた特徴(「行動力(移動量)に関する性格」や「浮気性」など)には「遺伝」が大きくかかわっている可能性が高いと考えられます。
こういった結論で満足していただけたでしょうか?
「結局性格がどのくらい遺伝で決まるのかわからないじゃないか」と言われると、返す言葉もありません…。
1つだけ言い訳させてもらえれば、ヒトの場合、解析に必要十分な公開されているデータが皆無に近いということがあります。
データさえされば、統計解析できる方は大勢いらっしゃいます。
中学生のことに習った、「y=aX+…」という回帰式に近いモデルを使って、遺伝の効果を推定すればよいだけです。
多重共線性と交互作用がやや面倒ですが、ノイズさえ補正すれば、デフォルトのモデルを少し改良するだけで遺伝率は推定できます。
加えて、JRAさんももう少し大学と連携して情報提供してくださってもよいと思ってみたり…。
言い訳はこのくらいにして、次の章では内容を発展させて「遺伝子発現量」にスポットを当てていきます。
「どのくらい遺伝するのか」、言い換えると「遺伝効果と環境効果、残差の比率はどうか」について具体的に説明していきます。
少し専門的になるので、興味のあるお方のみご覧ください<(_ _)>
以上、「遺伝と性格・行動ーヒトの性格や行動は遺伝するのか?」でした!
最後までお読みいただき、ありがとうございました<(_ _)>
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「遺伝と性格|ヒトの性格や行動は遺伝する?」まとめ
ヒトの性格が遺伝するか調べる方法
・ 一卵性と二卵性の双子に同じ性格実験をする
・ 一卵性の双子 ⇒ 環境も遺伝情報もほとんど同じ
・ 二卵性の双子 ⇒ 環境は同じだが、遺伝情報は約半分同じ
・ 「一卵性の双子は同じ行動を示したのに、二卵性は違った」場合には遺伝がかかわっている可能性がある
ヒトの性格や行動は遺伝する?
・ 1994年のアメリカの大規模実験では、同じ家庭で育てられた一卵性、二卵性のヒトを1000組ずつを対象に実験が行われた
・ 結論として、「一卵性の方がよく似ている=性格は遺伝する」、また「性格の3分の2までが遺伝で決まる」と判断されている
・ ただし、遺伝・統計学に信頼性の高い(有意な)結果だとは言い切れない
・ 他の小規模実験でも、同様に「一卵性の方が行動がよく似ている」という結果は示されている
・ 種類や程度は異なるが「性格に遺伝が関わっている」可能性は高い
動物の性格や行動は遺伝する?ー「犬・競走馬・マウスの例」
・ 犬や競走馬など多くの動物で、性格関連遺伝子が推定されている
・ ハツカネズミでは「浮気性」に関する遺伝子が、マウスでは「移動量」に関する遺伝子が特定されている
・ 「性格の遺伝性」全般については結論がだせないが、限定的な行動・性格には遺伝が大きくかかわっていると考えられる