以前の記事で、日本が正式に命名できることになった113番元素があると説明しましたが、2016年6月8日のIUPAC(国際純正・応用化学連合)のパブリックレビューにて、
この新しい113番元素名の案が「ニホニウム(Nh:nihonium)」であったことが発表されました。
※ 画像は理化学研究所HPより
テレビニュースでは「ニホニウム」で確定したと誤報道されていますが、
IUPACの承認を受けて初めて正式名称となります(現在はレビュー期間)。
※ 2016年12月追記 113番元素が「ニホニウム」で正式決定しました!
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これまで全118種類の元素について1つ1つ解説してきた背景もあるため、今回から「ニホニウム」の2本立てでお送りします。
まずは『ニホニウム/113番元素ー名前の由来は?ジャポニウム、ニッポニウムではダメ?』として、
なぜ「ニッポニウム」、「ジャポニウム」、「ジャパニウム」ではなく、「ニホニウム」と命名されたのか
についてわかりやすく解説します。
次回の記事で『ニホニウムの作り方(合成・発見法)と今後の展望』について解説します。
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ニホニウム/113番元素/名前の由来/ジャポニウム、ニッポニウムではダメ?
「ニホニウム(Nh)/113番元素」名前の由来
ニホニウム(Nh:Nihonium)の名前の由来は、ご存じのように「日本(Nippon)」です。
元素名は発見者が自由に命名できるのですが(承認されるかは別)、
国際規則として語尾に「イウム」を付けるのが慣習です。
よって、「ニホン+イウム」で「ニホニウム」となったわけです。
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研究グループのリーダーである九州大学の森田浩介氏は「日本で発見された元素であることを広めたい」という想いから、
「ニホン」を元素名に取り込んだというのが一般的な報道ですね。
しかし、よく考えてみてください。
外国人に「ニホン」といっても全く通じません。
「日本発」を謳うのであれば「ジャパン+イウム=ジャポニウム or ジャパニウム」と名付けるべきなのですが、
なぜ「ニホン」という日本語で名付けたのでしょうか?
また「ニッポニウム」ではダメだったのでしょうか?
これは決して森田氏らがうっかりしていたわけではなく、
「ジャポニウム」、「ジャパニウム」とは命名しづらく、「ニッポニウム」とは命名できない理由があったからです。
※ 画像は理化学研究所HPより
ジャポニウム、ジャパニウム、ニッポニウムではダメだった?【元素名の規則と日本発の強調】
なぜ新しい113番元素が「ジャポニウム、ジャパニウム、ニッポニウム」ではなく、
「ニホニウム」と名付けられたのか説明するために、「命名権のルール」を簡単に説明しておきます。
元素名の承認権を持つ IUPAC の規則(ルール)
1、混乱を避けるために、一度使用された名称は二度と使用できない
2、社名、組織名は不可
森田氏らの研究グループの意向
⇒ 「日本発であることを強調し、欧米諸国と日本の子供たちに認知させたい」
まずは「ニッポニウム」について。
「ニッポニウム」という名前については、かつて43番元素に日本が命名権を与えられ「ニッポニウム」と名付けた背景があります。
これは1908年(明治41年)に小川正孝が「トリアナイト鉱石から新元素を発見した」と発表し、
その元素に「ニッポニウム」と命名したのです。
しかし実際にはこの元素は地球上に存在していないということがわかり、
1936年に真の43番元素である「テクネチウム」が人工合成されたことで、
「ニッポニウム」は周期表から姿を消しました。
現在では、小川氏が発見したと勘違いした元素は75番元素のレニウムだったと考えられています。
以上のように、かつて「ニッポニウム」という元素名で命名されていたために「ニッポニウム」を元素名とすることは不可能です。
※ 補足ですが、テレビ報道の「日本が初めて命名できる元素」というのは誤りです(正確にはニッポニウムに続く2回目)
次に「ジャポニウム」と「ジャパニウム」についてですが、
これらは申請していればおそらくIUPACには承認されていたでしょう。
以前の記事である全元素詳細の記事を読んでいただけた方ならわかると思いますが、
元素名の多くがラテン語を語源としています。
元素名がラテン語に由来するのは「ニホニウム」以外の元素がすべて欧米・ロシアに命名された影響で、
特に欧米諸国の発見が大半だったためです。
よって、無難に名付けるならラテン語由来の「ジャポニウム」となりますが、
これでは欧米・ロシアにとって何も違和感がありません。
「日本が発見した元素だ」ということが理解しやすい一方で、
アジアで初めての命名だったとは誰も理解することがないでしょう。
森田氏は「日本発であることを強調したい」と述べていたため、おそらく名前に違和感を持たせ、
なおかつ日本の子供たちに「日本の偉業」と「科学力の高さ」を示したかったのだと考えられます。
実際に「ニホニウム」と名付けることで、
欧米は「これまでは元素名をみれば由来や語源がわかったのに、ニホニウムは難しい」と感じているようです。
以上の理由から「ニッポニウム」は使用が不可能で、
「ジャポニウム」と「ジャパニウム」よりは「ニホニウム」の方が適切であるとされたのでしょう。
この辺に関しては、理化学研究所の知人に今度聞いてみたいと思います。
ちなみに私はあくまで遺伝・統計学者であり、森田氏とは全く面識がないので、
「ジャポニウム」と「ジャパニウム」の考察が外れていてもご容赦ください<(_ _)>
以上、『ニホニウム/113番元素ー名前の由来は?ジャポニウム、ニッポニウムではダメ?』でした!
最後までお読みいただき、ありがとうございました<(_ _)>
「ニホニウム/113番元素ー名前の由来は?ジャポニウム、ニッポニウムではダメ?」まとめ
ニホニウムの名前の由来
・ 語尾に「イウム」を付ける国際慣習があったため、「ニホン+イウム」で「ニホニウム」
なぜニッポニウム、ジャポニウム、ジャパニウムではダメ?
・ ニッポニウムはかつて日本が命名した元素名であるため使用不可
・ ジャポニウム、ジャパニウムは命名可能だが、それよりもニホニウムと命名することで、欧米諸国に違和感を持たせ、かつ日本の子供達が科学に興味を持つきっかけになる