犯罪捜査や親子鑑定で使用されている「DNA鑑定」。
現在では、わずかな細胞からでも個人を特定することができます。
東日本大震災やアメリカの同時多発テロにおいても、故人を特定するために用いられました。
今回は『DNA鑑定ー種類・材料・方法は?髪、唾液、指紋でも個人を特定できる?』として
1、DNA鑑定とは?
2、DNA鑑定の種類
3、DNA鑑定の必要材料
4、DNAの弱点
について説明します。
スポンサーリンク
DNA鑑定/種類・材料・方法は?/髪、唾液、指紋でも個人を特定できる?
DNA鑑定とは?ー「個人の特定と塩基配列」
DNA鑑定の主な目的は、個人を特定することです。
細胞には遺伝情報(=DNA)が含まれていて、DNAはA・T・G・Cという4つの文字(塩基)が多数並んでいます。
この塩基の並び方は、ほとんどが全員共通していますが、
1塩基だけ変化が起こっていたり(SNP)、繰り返しの配列数(STR)が個体間で異なっています。
すなわち、DNA情報(塩基配列)が個体間で少しずつ違うため、その違いをもとに個人を特定しているわけです。
ちなみに一卵性双生児の場合においても、生まれたときこそDNA情報は完全に一致していますが、
成長するにつれ遺伝子のコピーミスや外部要因などによって遺伝子が一部変異していくため、
成人個体において100%完全にDNAが一致するケースはまずありえません。
DNAの集合体であるゲノムをすべて解析すれば、一卵性の双子であっても特定は可能です。
では次に、具体的にどのような方法でDNA鑑定が行われているのか、
またどんな材料があれば鑑定可能なのかみていきましょう。
スポンサーリンク
DNA鑑定の方法・種類ー「PCR法とSTR法、SNP」
DNA鑑定の初期の頃(1985年)は「DNAフィンガープリント」という方法が使われていました。
この方法ではDNAを「制限酵素」というはさみで切って、その長さを比較することで個人が特定できます。
識別の精度自体は指紋と同等のレベルではあるのですが、
部分的なDNAではとにかく作業が困難で安定した結果を出すことが素人では難しいというデメリットがありました。
加えて長さを比較するため、
ヒト以外でも制限酵素が合致すれば他の動物や植物でも類似のパターンが検出される側面もありました。
このデメリットを解消したのが現在でも使われている「PCR法」です。
理系の大学生は学生実験で取り組んだことがあるのではないでしょうか?
私が学生に指導した時でも、成功率が7割以上あるほどPCR法は簡単です。
PCR法は、端的に言えばDNAを無限に増やし続けることのできるDNA増幅方法です。
DNAフィンガープリント法ではDNAをそのまま切断するため、
採取したDNAが少量の場合や一部欠損している場合などには正確な識別が困難でした。
したがって、PCR法の開発によって少量のDNAを増やすことが可能となり、安定的な鑑定が実現されたわけです。
PCR法の詳細は割愛するとして、
現在では増幅したDNA情報を「切断」するのではなく「一部の配列を比べる」ことで鑑定しています。
犯罪捜査において主に使われているのは「STR」という2~6塩基の繰り返し配列です。
この配列は個人によって繰り返しの数が異なっているため、
その繰り返しすべてのコピーを作製して比較することで個人を特定しています。
他にも「SNP」といわれる1塩基の変化(1塩基多型)に注目した鑑定方法も行われています。
SNP情報はゲノム中に極めて豊富に存在していて、世代に伝わる際に安定していることが大きな特徴で、
少し専門的になりますがゲノムワイド関連解析やゲノム育種価予測によく利用されています。
以上のように、PCR法が開発されたことで少量のDNAからでも鑑定が可能となり、
部分的なDNA情報から個人が特定されています。
では、具体的にどのような材料があれば個人を特定するのに必要十分なのでしょうか?
DNA鑑定の必要材料ー「髪、唾液、指紋」
DNA鑑定に必要な材料として、基本的には細胞が1つでもあれば鑑定が可能です。
「DNAフィンガープリント法」ではおよそ3マイクログラムのDNAが必要でしたが、
「STR法」では1ナノグラムあればなんとか鑑定できます。
1ナノグラムは1グラムの10億分の1なので、どれだけ微量か想像できると思います。
では具体的な材料を述べていきましょう。
体の細胞はもちろん
たばこの吸い殻についた唾液
歯ブラシに付着した乾いた唾液
指紋についたわずかな細胞
爪切りに付着したツメ
など、基本的には細胞さえ採取できれば何でも問題ありません。
実際に科学捜査におけるDNA鑑定で使われているのも髪、唾液、指紋などの細胞です。
また、焼死体の場合でも、内臓の深部が焼けていなかったり、
骨にかたい部分が残っていればDNA鑑定が可能です。
その一方で、DNAにも弱点はあります。
証拠の隠滅に使われるほど容易ではないので説明してしまいましょう。
DNAの弱点ー「高温と多湿」
DNAの弱点は「高温」と「多湿」です。
低温の乾燥状態であればDNAは数百年以上もつのですが、
高温・多湿になるとDNAが腐敗し分解されてしまうため採取が困難になります。
ただし詳細は述べませんが、単に暖房を強めて水で濡らすなどの細工をしても、
鑑定が難しくはなりますが、個人の特定自体は可能なケースが多々あります。
そもそも指紋についた細胞からすら鑑定ができるため、そうそう簡単に証拠の隠滅などできるものではありませんね。
今回は「STR法」を中心に説明しましたが、他にも「ミトコンドリアDNA」という母方由来のDNAや
「Y-STR」という父方由来のSTRなども使用されます。
「ミトコンドリアDNA」はミトコンドリア数が 100~2000個/細胞 で腐敗した材料にも有効で、
「Y-STR」は男性特有のため、性犯罪において男性体液を分離する必要性がないなどの特徴があります。
現在はまだ開発段階ですが、
今後は「SNP」を用いたDNA鑑定方法が主流となり、より迅速な鑑定が可能となっていくでしょう。
以上、『DNA鑑定ー種類・材料・方法は?髪、唾液、指紋でも個人を特定できる?』でした!
最後までお読みいただき、ありがとうございました<(_ _)>
「DNA鑑定ー種類・材料・方法は?髪、唾液、指紋でも個人を特定できる?」まとめ
DNA鑑定とは?ー「個人の特定と塩基配列」
・ DNA鑑定の主な目的は、個人を特定すること
・ 細胞に含まれるDNAの配列を比較することで、個人を特定している
DNA鑑定の方法・種類ー「PCR法とSTR法、SNP」
・ 初期の頃は「DNAフィンガープリント法」というDNAを切断する方法が使われてた
・ その後、「PCR法」というDNA増幅方法が開発されたことで、より安定的な鑑定が実現された
・ 現在は主に「STR」という2~6塩基の繰り返し配列を比較することで鑑定している
・ 他にも「ミトコンドリアDNA」や「Y-STR」を用いた鑑定方法がある
・ 今後は「SNP」を用いたDNA鑑定方法が主流となり、より迅速にDNA鑑定できる可能性がある
DNA鑑定の必要材料ー「髪、唾液、指紋」
・ 基本的には細胞が1つでもあれば鑑定が可能
・ 体細胞はもちろん、たばこの吸い殻についた唾液や指紋についた細胞、爪切りに付着したツメなどからでも鑑定できる
・ 焼死体の場合でも、内臓の深部が焼けていなかったり、骨にかたい部分が残っていれば鑑定が可能
DNAの弱点ー「高温と多湿」
・ DNAの弱点は「高温」と「多湿」
・ 高温・多湿になるとDNAが腐敗し分解されてしまうため採取が困難になる