「メンデルの法則」は、多くの生物の遺伝現象をうまく説明していますが、例外もまた多く存在します。
今回は『メンデルの優性・分離・独立の法則の例外』として、メンデルの発見した3つの遺伝法則に対する
例外
を挙げていきます。
スポンサーリンク
メンデルの優性・分離・独立の法則の例外|ヒトにも当てはまる?
メンデル優性の法則の例外
ⅰ) 不完全優性(;エピスタシス効果)
オシロイバナの花の色は赤、黄色、白などバリエーションに富んでいますが、赤と白の両親からピンクの個体が生まれることがあります。
これは血液型のAB型のように、異なる遺伝子を持つ個体(ヘテロ接合個体)の場合に、中間色を示す例です。
両親が純系の場合、赤:ピンク:白=1:2:1の比率になります。
この現象は、赤色の遺伝子と白色の遺伝子が互いに影響しあっているために生じます。
この現象をエピスタシス(遺伝子間相互作用)と呼び、「優性の法則」のみならず「独立の法則」の例外でもあります。
ⅱ) 複対立遺伝子(;共優性)
ヒトのように染色体が2本1セットの二倍体生物の場合、
個体単位では、1つの遺伝子座位に対して最大でも2つの対立遺伝子までしかもちません。
しかし、集団で考えた場合には複数の対立遺伝子をもつ場合があります。
これはちょうど前章で説明した「ABO式血液型」のケースです。
血液型を決める遺伝子はA、B、O遺伝子の3つありますが、
一人がもつことができるのは、これら3つの遺伝子のうちで1つか2つです(AとO遺伝子など)。
このように1つのエリア(=1つの座)に複数の対立遺伝子が存在する場合、それらの遺伝子を「複対立遺伝子」と呼びます。
複数遺伝子がある場合、遺伝子間の優劣関係がはっきりしないことがあります。
「ABO式血液型」のケースでは、遺伝の強さがA遺伝子=B遺伝子であり、優劣関係が存在しません。
このようなAとBがともにO遺伝子よりも強い場合、「AとBは共優性の関係にある」といいます。
以上のように、対となる遺伝子間に優劣の関係が認められない場合にも、「優性の法則」は成り立たず例外となります。
スポンサーリンク
メンデル分離の法則の例外
ⅰ)染色体の不分離
生殖細胞(卵子や精子)を形成するとき、1対の相同染色体が、それぞれ別の生殖細胞に分配されます。
このとき分配がうまくいかず、相同染色体を2本もつ生殖細胞や相同染色体をもたない生殖細胞が生まれることがあります。
もう少し噛み砕いて説明すると、父親は2本の染色体のうち、精子には1本だけ入れないといけないのに、失敗して2つのままだったり、
逆に1本もいれなかったりした…という甲斐性なしなケースのことです。
この現象のことを「不分離」と呼びます。
では、これらの相同染色体数が異常な生殖細胞が正常な生殖細胞と受精した場合どうなるのでしょう?
当然のことながら、本来1+1=2だったはずが、2+1=3や0+1=1となるわけです。
すなわち、相同染色体を3本あるいは1本しかもたない染色体(異数体)が生成されます。
この場合、小さい染色体であれば生存することもありますが、多くは受精卵が分化していく過程で個体が死にます。
個体が減る結果、「メンデルの法則」における3:1などのキレイな比は認められなくなります(⇒ 例外)。
補足として、ダウン症候群の方はこの「染色体の不分離」により21番染色体を3本もっているために発症しております。
ⅱ)ミトコンドリアDNAや一倍体生物
ミトコンドリアは、ヒトのような真核細胞の核の中にあり、生命活動のエネルギー源となるATPを合成しています。
このミトコンドリアは母親からのみ遺伝し、父親のミトコンドリアは発生の段階まで残りません。
また、大腸菌のように自己複製する原核生物にも「分離の法則」は当てはまらず例外となります。
そもそも遺伝情報を受け継ぐ両親がいませんからねw
メンデル独立の法則の例外
ⅰ)エピスタシス効果
「優性の法則の例外」におけるオシロイバナの項をご参照ください。
ⅱ)連鎖、組み換え
1本の染色体にはさまざまな遺伝子が存在していて、これらの遺伝子をひっくるめて「連鎖群」と呼びます。
すると、複数の遺伝子が同じ染色体上にある場合には、連鎖によって遺伝子がまとまって子供に受け継がれます。
つまり、連鎖群単位で遺伝してしまうため、「独立の法則」は当てはまらず例外となります。
加えて、減数分裂の際に連鎖が外れた場合(組み換え)も法則の例外となります。
以上が「メンデルの法則」の例外です。
他にも多数ありますが、重要なことはすべて網羅したつもりです。
生物を対象とした法則のため、やはり例外は多くありますが、
今回挙げた主な例外を除けば、
メンデルの法則は今でも正しく、特にその中心原理の「分離の法則」は遺伝の根本原理を見事に示しています。
やはり、偉人と呼ばれるだけの実績ですね。
次の項では、「優性の法則」が当てはまるヒトの形質を簡単に紹介し、結びとさせていただきます。
スポンサーリンク
メンデル 優性の法則のヒトへの適用ーヒトの顔にも当てはまる?
メンデルの優性の法則は、上記で説明した例外を除けばヒトにもある程度は当てはまります。
ただし、ヒトの複雑な形質は、質的形質に近い「目や髪の色」の場合においても、
遺伝的効果に加え、生活環境などの環境効果、
さらにそれら2つの交互作用をモデルに考慮する必要があるため、完全に優劣を決めつけることは困難です。
他のサイトでは、遺伝子座が特定されていない形質も例として挙げているのですが、いい加減なことは書けないので、
論文で原因遺伝子が特定されている「耳垢」形質のみをご紹介します。
耳垢型: 優性:湿っている、劣勢:乾いている、原因遺伝子:ABCC11
引用文献:Yoshiura K, Kinoshita A ら: A SNP in the ABCC11 gene is the determinant of human earwax type.
Nature Genetics 2006, 38:324-330.
これを調べるだけで2時間かかりました…。
効率が悪すぎますね。
レビュー論文があると期待していたのですが、PubMedではうまくヒットしませんでした。
もしご存じの方がおられたら教えていただけると非常に助かります<(_ _)>
追記していきますので。。。
以上、『メンデルの優性・分離・独立の法則の例外ーヒトにも当てはまる?』でした!
最後までお読みいただき、ありがとうございました<(_ _)>
「メンデルの優性・分離・独立の法則の例外ーヒトにも当てはまる?」まとめ
主要な「メンデルの法則」の例外は以下の通り。
① メンデル 優性の法則の例外
1、不完全優性:遺伝子間に優劣関係が存在しない
2、複対立遺伝子:1遺伝子座位に対し複数の対立遺伝子が存在している
② メンデル 分離の法則の例外
1、染色体の不分離:染色体の分裂エラー
2、遺伝形式が異なる場合:ミトコンドリアDNAや一倍体生物など
③ メンデル 独立の法則の例外
1、エピスタシス効果:遺伝子間に相互作用がある場合
2、連鎖および組み換え:同一染色体上にある遺伝子の連動