がん。
それは1981年から日本人の死因トップに居座り続けている病です。
現在の再生医療をもってしても、その治療は極めて困難であり、がん細胞が増えれば死を遅らせることしかできません。
今回は『がん細胞ー突然変異とアポトーシスが原因?なぜがんを防げない?』として、
「がんとは何か」から始め、なぜ、そしてどのようにしてヒトを死に至らしめるのかわかりやすく解説したいと思います。
少し余談も入っているため、お時間のない方は最後の「まとめ」だけお読みになってください<(_ _)>
※ 2018年10月1日追記
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がん細胞|原因は突然変異とアポトーシス?/なぜがんを防げない?
がん・がん細胞とは?
”がん” とは「無限に増力する異常な細胞(=がん細胞)の集まり」
です。
がん細胞が「正常な組織や器官の中で増殖していき、必要不可欠な代謝が行えない」というのがヒトの「がん」による死因です。
「がん」はたった1つの「がん細胞」から始まり、それが無秩序に、そして無限に増殖していきます。
1つのがん細胞が30回分裂するとX線で見えるレベルの大きさ(1億個)になり、
さらに10回分裂するだけで「末期がん」とされる大きさにまで膨れ上がります(1兆個)。
加えて、「がん細胞」は自分の持ち場を離れる(転移する)ことができるというやっかいな性質を持ち合わせます。
そうして他の臓器の働きを阻害し、死に至らしめるという…。
では、一体なぜこのような異常な細胞が生まれるのでしょうか?
※ 画像はEssential細胞生物学より転載
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がんの原因とヒトが死ぬ理由|細胞の自殺(アポトーシス)と遺伝子の突然変異
前章でも少し触れましたが、ヒトの場合、精子と卵子が出逢い1つの受精卵が誕生し、
その1つが増殖・分裂を繰り返して60兆個もの細胞を生み出します。
そして60兆個のうちの3,000~4,000億個が毎日死ぬと考えられています。
この「死ぬ」というのが肝です。
通常の1個の細胞が行う分裂の上限回数は50回程度でその後「死ぬ」のですが、がん細胞には上限がありません。
がん細胞が「死ぬ」という自殺プログラム(=アポトーシス)を「遺伝子の突然変異」によりかいくぐっているためです。
「突然変異」とは、「遺伝子の情報が書き換えられる現象」のことです。
細胞分裂の時に情報のコピーを間違ってしまったり、強い放射線や化学物質により誘発されます。
遺伝情報が変化することで異常個体になるため、もしその異常さが生存に有利であれば「進化」につながり、
不利であればその変異は死に絶えます(淘汰)。
※ ただし、変異した遺伝情報が子供に伝わるためには、卵子や精子といった生殖細胞の遺伝子に変異が起きる必要があります
身近な例としては、チェルノブイリや福島原発付近で報告されている松などの異常個体は
「放射線」に起因する「突然変異」だと考えられます。
話が逸れましたが、がん細胞は、「細胞の自殺(アポトーシス)」をつかさどる重要な遺伝子が変異したことにより、
死ぬことなく分裂し続けることができできる
⇒ 無限に増殖する
⇒ 他の組織や器官を侵食する
⇒ 生命活動が維持できない
⇒ 人の死
とつながるわけですね。
もう少し詳しく説明すると、アポトーシスの他にも、
「もっと細胞を増やせ!」と命令する遺伝子と「もう細胞を増やさないで(/_;)」と懇願する遺伝子も変異し、正常に機能しなくなっています。
つまり、「細胞の増殖と死」をつかさどる遺伝子に変異が生じたためだと言い換えられます。
以上のように「がん」の原因は、
「細胞の増殖と死」をつかさどる「遺伝子の突然変異」により無限に増殖する「がん細胞」が生まれるためだ、
ということがわかりました。
ところで、私たちヒトという優秀そうな種族は、本当にたった1つの「がん細胞」を見過ごすほど脆弱なのでしょうか?
ケガをしても、風邪をひいても自然と治癒する力をもった個体です。
優秀すぎて花粉症まで発症するほどですw
そこで次の項では、「がん化のメカニズム」に注目して、
「なぜがんを防ぐことができないのか」のか説明、考察していきたいと思います。
がんを防げない理由-がん化のメカニズム
上の項目で、がんの原因は「遺伝子の突然変異」だと述べました。
実はこの突然変異という現象自体は、低確率で日常的に起きているのです。
遺伝子の変異率は、組織や論文によってかなり異なるのですが、概ね10万~100万分の1程度で起きています。
遺伝子によっては1万分の1、微生物にいたっては1億分の1などかなり幅は大きいのですが、いずれにしても頻度の高い現象ではありません。
さらに、遺伝子の変異が一カ所あっても、必ずしも異常が現れるわけではありません。
加えて、多くの遺伝子は、その本来の役割を多少遂行できなくなっても他の遺伝子がサポートしてくれます。
そうでなければ、変異が起きるたびに病気になってしまいます。
この特徴は「がん細胞」にも当てはまります。
細胞が「がん化」する、つまり無限に増える能力を備えるためには、
「細胞の増殖と死」をつかさどる遺伝子がピンポイントで変異し、しかもその変異が蓄積していく必要があります。
つまり、「がん細胞」に関わる100以上の遺伝子のなかに数多の変異が蓄積していき、かつ特定の組み合わせの遺伝子が機能しなくなる、
という長い、そして極めて低確率な工程が必要です。
人体はこの変異を修復する能力をもってはいるのですが、老化によって修復の正確さが低下していきます。
「低確率」だからこそ、老後まで完璧に修復し続けるような仕組みは作り上げられていません。
以上のように、「低確率な変異を老化とともに完全には修復できなくなること」が、がんを防げない理由に当たります。
しかし、その「低確率」が積み重なっていくと修復不可能な「がん細胞」が生まれるのです。
そのため、若年者のがん患者は極めて少なく、
50歳代以上で急増する理由はこの「低確率の積み重ねと修復機能の低下」のためです。
以上が「がん化のメカニズム」と「がんを防げない理由」です。
「がんを防げない理由」について少し補足…というよりも、個人的考察を加えておきます。
生物学的に考えると、命の意義は「種を反映させるために、(優秀な)個体をより多く残すこと」です。
この考えに従えば、繁殖時期を過ぎかけている、または完全に過ぎた個体を生存させる必要はありません。
人間社会に限れば、高齢者の方々の種々の知見が経済的にも社会秩序的にも極めて重要ですが、
高度な知能をもたないほとんど動植物では長生きのメリットはごくわずかです。
そのため、人体も「”軽微なエラーの積み重ねがもたらす死”を防ぐコスト」よりも「”生存に有利な状況を生み出す”コスト」を優先させる、
のではないでしょうか。
なんとも非人道的ではありますが、生存競争を考えれば適切な判断だとは思います…。
しかし、嘆いてばかりはいられません。
人類は英知の生物です。
最大寿命をのばすことはできなくとも、「iPS細胞」をはじめとした再生医療が「不治」という熟語を死語にしてくれると信じております。
以上、『がん細胞ー突然変異とアポトーシスが原因?なぜがんを防げない?』でした!
最後に「まとめ」です。
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「がん細胞|突然変異とアポトーシスが原因?なぜがんを防げない?」まとめ
1、がんとは?
がん:無限に増力する異常な細胞(=がん細胞)の集まり
がん細胞:無秩序かつ無限に増殖することができ、転移も可能
2、がんの原因とヒトが死ぬ理由
「細胞の増殖と死」をつかさどる遺伝子に変異が生じる
⇒ がん細胞が生まれる
⇒ 無限、無秩序に増殖し、他の組織や臓器を侵食する
⇒ 生命活動が維持できない
⇒ 人の死
3、なぜがんを防げないのか?
・低確率かつ低リスクな遺伝子の突然変異を人体が完全には修復できないため
⇒ がん関連遺伝子のうち、特定の組み合わせの遺伝子が複数異常をきたさない限りがん細胞は生まれない