前回の『ニホニウム名前の由来』では、「なぜニホニウムという名前になったのか」、「なぜジャポニウム、ニッポニウムではダメだったのか」を説明しました。
今回は『ニホニウムとは/作り方・合成法は?どうやって発見した?今後の展望は?』として、
「どうやってニホニウムを作ったのか(合成法)」
「119番元素以降の新元素も日本が発見できそうか(今後の展望)」
を中心に説明していきたいと思います。
※ 画像は理化学研究所より
かなり専門的な話にはなりますが、高校化学を専攻していなかった方にも理解していただけるように、
わかりやすさを第一に解説していきたいと思います。
といいつつも、相対性理論の記事が分かりにくかったと指摘された前科がありますが…。
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ニホニウムとは?/作り方・合成法・発見過程・今後の展望
ニホニウムとは?-まずは元素を復習!
ニホニウムは日本が発見した新しい ”元素” ですが、まずは「元素」という基本的なことを復習しておきます。
元素とは、この世界に存在している物質を構成している基本的な存在です。
例えば「水(H2O)」は水素元素2個(H2)と酸素元素1個(O)から成り立っています。
正確には元素と原子を区別しなければならないのですが、小難しくなってしまうので、
今回に限り「原子≒元素」と考えてもらって結構です。
※ 詳しくは『原子と元素の違い(化学の基礎編)』記事を参照
とにかく「元素=物質の基本単位」と考えてください。
したがって、「1つ新しい元素を発見するということ」は「今まで知らなかった物質を発見すること」に繋がります。
特に「ニホニウム」は地球上には存在しない元素なので、宇宙空間の不思議に迫る手助けをしてくれるかもしれません。
それでは、さっそく「どうやってニホニウムを合成した」のか説明してきましょう。
※ 元素や周期表については別記事にて詳しく解説しているので、興味のある方はそちらをご参照ください
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どうやってニホニウムを作った?ー合成法をわかりやすく解説!
ここからは「どうやってニホニウムを作ったのか(合成法)」について説明していきます。
加速器という「原子をものすごい速さに加速させることのできる機械」を使って、
2つの原子を衝突させることで「ニホニウム」は合成されました。
具体的には、下の写真の線形加速器のライラック(RILAC)を使って、
原子番号30の亜鉛(Zn)を光速の10%まで加速させ、原子番号83のビスマス(Bi)に衝突させています。
※ 線形加速器ライラック(画像は理化学研究所HPより)
ちょうど亜鉛(Zn)とビスマス(Bi)2つの原子番号を足すと、
30+83=113となり、ニホニウムの原子番号113と一致しますよね。
原理としては「超加速させた”亜鉛ビーム”を”ビスマス”に照射したら、新しい元素ができた」というだけの話なのですが、
実際には技術的にも確率的にも大変な労力が必要です。
どれだけ大変な道のりだったかを実験の軌跡をたどりながら観ていきましょう。
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ニホニウム合成への歴史:(融合)確率は100兆分の1?
ニホニウムを作る(合成・融合)させるうえで特に困難だったことは以下の2つです。
1、原子核が非常に小さいため(1兆分の1cm)、そもそも亜鉛とビスマスを衝突させられない
2、もし衝突したとしても、それらが融合する確率が100兆分の1しかない
よって、ニホニウムを合成するには、
① 亜鉛とビスマスの衝突頻度・効率を向上させる
② 融合確率を向上させる
のどちらかの技術革新が必要でした。
研究所グループはまず「① 亜鉛とビスマスの衝突頻度・速度を向上させる」に取り組みます。
亜鉛を単体でとらえるのではなく、ビーム(束)としてビスマスに当て続ける手法を取りました。
ビームを当てるといっても簡単ではありません。
光速の10%という速度で、多数の亜鉛が運動しているわけなので、持っている「運動エネルギー」は桁違いです。
こんなとんでもない「エネルギー」を当て続ければ、ビスマスに穴をあけてしまいます。
※ 光速の10%程度では「エネルギー=質量(一般相対性理論)」のためにエネルギーが質量に置換されてしまう影響は大きくありません
そこで研究グループは、エネルギーを一点集中させないように、
ビスマスの標的(集合体)を毎分3,000回転以上で回すことで、穴をあけずに衝突させる作戦を取りました。
個人的には、この「標的の回転」こそが成功の主要因だったと考えています。
これで「① 亜鉛とビスマスの衝突頻度・効率を向上させる」をクリアし、ニホニウムの合成(融合)も不可能ではなくなりました。
続いて、実際にどういう経緯で今回の「ニホニウム命名権の獲得」に至ったのかを箇条書きで簡単に説明していきましょう。
ニホニウムの命名権を獲得するまでの日本の歴史
・ 2003年9月 実験開始 ⇒ 亜鉛ビームをビスマス標的に当て続ける
・ 2004年7月 初めてニホニウムの合成に成功 ⇒ 発見はしたが証明はできず(α崩壊の信頼性に欠ける)
・ 2005年4月 2個目のニホニウムの合成成功 ⇒ 決定的な証拠は得られず(α崩壊数が4回のままで実証に至らず)
・ 2012年8月 3個目のニホニウムの合成成功 ⇒ 計6個のα粒子を確認し、ニホニウムの実証に成功
・ 2016年6月 ニホニウムとして命名提案 ⇒ 名前に批判がなければ「ニホニウム」で今年末頃正式決定
ニホニウム命名権を獲得するまでの歴史は、概ね以上のようになっています。
α(アルファ)崩壊などについて説明しだすと「わかりやすく」は書けそうにないので今回は割愛します。
確か以前の記事で詳しく書いていたような気はするで、確認していただけると助かりますが…。
簡単に言えば、「本当は陽子を113個数えたいけどムリそうだから、間接的に実証できる現象で証明しよう」と考えて、
比較的検出が容易なα崩壊(α粒子)を観測しているわけです。
「比較的簡単」とはいっても、自動解析していると見逃すこともあるほど小さな現象です。
実際に2013年に発見されたニホニウムでは、オフライン上での解析で発見されていたと聞いています。
詳しい話は今回はナシにするとして、ニホニウム発見後の「今後の展望」について説明しましょう。
ニホニウムと今後の展望:「119番元素以降も日本が発見できそう?」
新元素を発見するための技術者、そしてある程度の機器は日本に揃っています。
その上で「119番元素以降も日本が発見できるか」と聞かれれば、「発見を期待している」としか応えられません。
そもそも私は統計学者ですしねw
例えば、119番元素を合成するとしましょう。
原理としては「ニホニウム」の場合と同様で、
チタン(原子番号22)やクロム(原子番号24)のビームをウラン(原子番号92)やプルトニウム(原子番号94)に照射するのが一般的でしょう。
理化学研究所であれば、ニホニウムの時に使った加速器である「線形加速器のライラック」の他にも、
下の写真の「気体充填型反跳分離器(GARIS)」が使えそうです。
※ 気体充填型反跳分離器(画像は理化学研究所HPより)
確か分離器の2号機も開発中(開発済み?)だったはずです。
よって、新元素を合成できる可能性自体はありますが、やはりヨーロッパ諸国の方が人材と機材の面ではるかに優位であるため、
日本が一番乗りするのは現状難しいとは思います。
しかし、今回のニホニウムの発見・命名のおかげで、今後予算が振り分けられたり、
化学者の育成が進むなどすれば対等な勝負ができるかもしれません。
特に今の周期表の終盤は「超重元素」という使い道のない元素だけで面白みに欠けるため、
この先の寿命の長い元素群をぜひ日本の手で発見してほしいと願っています。
以上、『ニホニウムとは/作り方・合成法は?どうやって発見した?今後の展望は?』でした!
最後までお読みいただき、ありがとうございました<(_ _)>
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「ニホニウムとは/作り方・合成法は?どうやって発見した?今後の展望は?」まとめ
・ 元素は物質の基本単位であるため、新しい元素を発見することは「今まで知らなかった物質を発見すること」に繋がる
・ ニホニウムも地球上には存在しない新しい元素
・ ニホニウムの合成(融合)は、超加速させた亜鉛(Zn)ビームをビスマス(Bi)に照射することで生み出される
・ 亜鉛とビスマスの原子番号を足すと113となり、ニホニウムの原子番号に一致する(ただし、原子番号が必ずしも一致する必要はない)
・ ニホニウムの合成(融合)は極めて困難であり、合成確率は100兆分の1という低確率
・ 実験開始から9年後、3個目のニホニウムを合成した時に初めて、ニホニウムの存在を証明できた
・ 今後、日本が新元素を発見する可能性は十分にあるが、欧米諸国と比べると不利な状況にある